お約束クラッシャー「メランコリック」ネタバレ感想

2021年4月27日

なんて触れ込みだったか忘れたけど、少し前にTwitterで話題になっていた作品。

 

ポスターだけ見てなんとなく韓国映画かと思っていたのですが

(パラサイトに引っ張られている)バリバリの邦画でした。

 

 

同じ劇団のメンバーを中心に、300万円とかなり低予算で制作されています。

 

マスメディア的には無名の俳優さんばかりですが、

逆にキャラクターにバイアスをかけず観られてよかったです。

 

ていうか超面白かったので、ぜひ観てほしい!!

 

以下、ネタバレしかしてない感想です。

 

「メランコリック」あらすじ

鍋岡和彦は、東京大学を卒業したものの、

これといった理由もなく就職せず、実家住まいのフリーター生活を続けていた。

 

ある日、偶然訪れた銭湯で、高校の同級生・副島に声をかけられる。

 

なかなか会話の続かない和彦に対しても、積極的に話題を振ってくれる副島。

 

ほのかな恋心が芽生え、つい見栄を張ってしまった和彦は、

彼女に勧められるまま再会の場である銭湯で、アルバイトを始めることに。

 

先輩の小寺は寡黙で、何を考えているか分からない。

和彦と同日採用の松本は、チャラくて今どきっぽい若者。

 

スタッフは全員一癖あるものの、温和なオーナーを始め皆いい人で、

ときどき客として訪れる副島との会話もあり、楽しく働けそうである。

 

ある夜、副島とのデートの帰り道、何気なく閉店後の銭湯を覗いた和彦は、

オーナーが銭湯を殺人の場として貸し出していることを知ってしまった。

 

和彦の人生は、この夜を境に少しずつ傾き始める

わけでもなく・・・

 

「メランコリック」はグロい?

【メランコリック グロい】で検索した方もいると思います。

いちおう「殺し屋」の映画なので、グロいシーンがないか心配ですよね。

 

「メランコリック」にはグロシーンはほぼありません。

 

当然、銃を使うシーンはありますが、どこかお遊戯的で全然怖くありません。

死体を解体するシーンなどもありませんので、内臓も出ません。

 

一部、銃による流血シーンがあります。

銃創が苦手な方はご注意ください。

 

お約束破りのオンパレード

さて、「メランコリック」を観ていてすごいと思ったのは、

 

「こうなるだろう」という想像が全部覆されるところ。

 

副島百合という女

副島は、東大卒以外とくに魅力のないコミュ障気味の和彦に対し、

久しぶり! からぐいぐいアタックしてくる元同級生。

 

 

こんなの出てきたら、

100%マルチ商法か美人局だと思うじゃないですか。

 

推定顔タイプフレッシュで、風呂上りすっぴんが一番コンディション良いとはいえ(なんの話)高校卒業以来会ってない、しかも当時からそれほど交流があったわけでもない元同級生の異性に銭湯で話しかけますか?

 

でも結局、副島はただ和彦に元から好意があり、

この機を逃してはいけない!と話しかけただけだったんですよね。

 

2つのエピソードが独立している

私たちがなんとなく予想してしまう「よくある」展開としては、

 

副島は田中(銭湯のオーナーを脅して場所を提供させているやくざ)と繋がっていて、和彦は利用されていた。

 

副島との恋愛は、出会いから仕組まれていたのだ・・・。

 

みたいなパターンです。

 

なんと本作の「表パート(副島編)」「裏パート(物騒な銭湯編)」は、

全く独立しており、最後まで交わらずに終わるんですね。

 

ラストシーンでようやく、表・裏パートの登場人物が一同に会します。

 

そこでも、「お、お前は敵対組織の……!」ということもなく、

ただただ世界は平和になり、物語が終わるという綺麗な形になっています。

 

和彦が狙い通り銭湯に採用された後も、なんか初々しいデートしてるし、

告白されても嬉しそうに「次は気張らない居酒屋にしようね」なんて返事するし、

 

とにかく副島さんがカワイイ。

 

エッ いつ裏切るの!? いつ裏切るの!?

 

田中の家に……

いない!!

 

アアッ営業再開した銭湯に来た!!

ついに!? その桶から拳銃が!?

 

出ない!!

えええええ!!!? と声を上げてしまいました。

 

 

ふつうに最後までただの可愛い彼女でした。

 

説得力があるご都合主義

私たちの中にある「映画のお約束」がどんどん破られていく、

この「びっくり」こそが、本作の良さ・本質だと思います。

 

人生って意外と「ふつう」なんですよ。

ドラマチックすぎることは続かないんです。

 

不自然なほど急にできた彼女は黒幕ではないし、

誰かがいたずらに和彦のプライドを貶めることもないし、

和彦が空気を読めずに怒って輪を乱すこともないし、

初めて人に銃を向けた和彦の玉は、たまたま致命傷を与えるし、

やくざを殺して愛人をさらったのに追っ手は来ないし、

監視カメラがないはずないけど警察にも追われないし、

 

そして、松本は死なないんです。

撃たれてうどん食べれるのすごいな。

 

結果だけ見ると「こうなったらうれしい」が全て叶っています。

 

ご都合主義的なはずなのに、

私たちの「予想」に繋がりそうな不安要素がしっかり出てきて、

観ている間はその結末にいつ繋がるのかとドキドキしっぱなしでした。

 

映画やアニメに出てくる「いい人すぎて逆に怪しい」人って、

大抵「黒」じゃないですか。

 

だから勝手にずっと怪しんでハラハラしてしまうのに、

本作では肩透かしをくらって、「よかった~!」とハッピーになってしまう。

 

実際のところ世の中は意外と辛いことばかりでもなく、

そしてドラマチックでもないのかもしれません。