力技タイムループ×ラブコメディ「パーム・スプリングス」ネタバレ感想

公開時にあらすじをナナメ読みした結果、

「愛する人と一緒にループに巻き込まれてしまったけど、えっ好きな人と若いままずっと過ごせるのってサイコーじゃん!」

みたいな話だと思っていました。

 

恐ろしいことに4割くらい合ってましたが、

実際にはただのパリピ版インセプションではなく、伏線やメッセージ性も盛り込まれた贅沢コメディだったので、ぜひ観てみてほしいです。

 

 

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「パーム・スプリングス」あらすじ

しぶしぶ参列した妹の結婚式で、優男のナイルズと出会ったサラ。

ナイルズのアタックに流され式場を抜け出すが、良いムードになったところに謎の老人が現われ、突然ナイルズに矢を放つ。

 

事態を飲み込めず慌てるサラをよそに、ナイルズは逃げ、老人はナイルズを執拗に追った。

彼らを追って海岸の洞窟に入ったサラは謎の光に包まれ、目が覚めると、なんと結婚式の朝に時間が巻き戻っていた。

 

ナイルズが事情を知っていると考えたサラは、彼を問い詰めるが……。

 

記憶が積み重なるタイプのループもの

古今東西、タイムループものというのはたくさんありますが、本作は主人公たちが時空に閉じ込められてしまうタイプです。

 

私の世代ではやっぱり「エンドレスエイト」を思い起こさずにはいられません。

 

 

「エンドレスエイト」では、「主人公が夏休みに満足していない」ことがタイムループの原因であることが分かっていて、タイムループに気づいた友人たちがなんとか主人公を楽しませようとあれこれ試す様子が描かれました。

 

当然、本作の主人公であるサラもループからの脱出を目指し頑張るのですが、

15日で1ループの「エンドレスエイト」とは異なり1日で再ループしてしまうこともあり、移動できる距離やできることには限界があります。

 

結局、「この条件をクリアすれば離脱できる」といったものは分からずじまい。

 

最終的にはまさかの力技でした!

 

万事尽くした苦悩の果てのボーナスタイム

本作では、ループしても記憶がなくならないため、3回目以降は「明日も今日が始まる」という認識のもと1日が終わります。

 

彼らにもループしている自覚があるだけに、同じことを試すシーンが続かないのはこちらとしてもありがたいです。

 

ただし3回目といっても、視聴者とサラにとってのものです。

 

実はナイルズ(と彼を襲った老人・ロイ)がすでにループしている世界にサラが加わっており、

ナイルズのほうがループした回数は数えきれないほど多くなっています。

 

ちなみにロイもまた、ナイルズの行動によってあるタイミングからループ世界に巻き込まれてしまった一人です。

 

というわけでサラがループし始めたころにはすでにナイルズは悟りを開いており、

ロイによる他殺はもちろん、自殺、殺人、物理的距離を取るなど、あらゆる手を尽くした後でした。

 

何を試しても離脱できない、しかも定期的にロイが殺しにくるとあって、

ナイルズは刹那的な欲求を満たすくらいしかすることがなくなっていました。

 

サラも最初の数回は悲観的でしたが、

ナイルズの説得もあり、やがて吹っ切れたようにループ世界を楽しむようになります。

 

どうせループしてしまうからと投げやりになって、お金や時間に糸目を付けずドカドカ無駄遣いする様もサイコーでした。

 

なぜサラは元の世界線に戻りたくなったのか

さて、手がかりのない回廊からどのように二人が抜け出したかというと、

前述のように「力技」なのですが、

 

なんとサラが死ぬほど勉強して科学の力で脱出を図ります(笑)

 

しかし、なぜサラはそうまでして元の世界線に「戻りたい」と強く願うようになったのでしょうか。

 

サラにとってのループとナイルズ

ここで考えたいのは、サラにとってループの日はどんな日であるかということです。

 

実はサラはこともあろうに、結婚式の前夜に妹の夫と寝ていました。

そしてループのたびに彼のベッドで目覚めています。

 

そのためか、サラはループ前の結婚式の最中ずっと浮かない顔をしていました。

 

誰かに見つからないようこっそり出なければいけない屈辱、誘いに乗ってしまった自己嫌悪、妹の夫と寝てしまったという罪悪感。

そういった苦しみが、朝を迎えるたびに彼女に押し寄せていたのではないでしょうか。

 

それを一時的にでも和らげてくれていたのがナイルズの存在でした。

 

ループし始めてどれだけの時が経っていたかは分かりませんが、

時間を重ねるにつれてサラは確実にナイルズを愛し、ナイルズもサラを愛していました。

 

サラがループに入った初日は、ロイの襲撃によりなんだかんだ未遂に終わっていたナイルズとのセックス。

 

浮気相手でもワンナイトでも来るもの拒まずのサラは、これまで家族からすら「尻軽」と呼ばれていました。

 

しかしナイルズとは、

ループにより犬猿の仲かつ唯一の理解者という稀有な関係からスタートしたことで、

身体の関係を持たず過ごし、図らずも時間をかけて愛を育めていました。

 

そして満を持して初めてナイルズと身体を重ねた翌日、サラは今までになく満ち足りた表情で朝を迎えます。

 

この日ようやく彼女は、「尻軽な自分」という呪いから抜け出したように思います。

 

サラにとって明日を迎えるということは

しかし、彼女はふいに、

ループにハマる以前の自分が1,000回以上ナイルズに口説かれ、すでに身体を重ねていたことを知ります。

 

結局、主観的な時間軸はともかくナイルズとも身体から始まっていたことを知り、絶望するサラ。

そしてそれ以降、ナイルズの前から姿を消し、黙々と勉強に励むようになったのです。

 

このシーン、サラ自身は大真面目なのですが、壮大かつ雑すぎる映像が、

「あっこれコメディだった」と思い出させてくれて大好きです。

 

ループから抜け出し、時間を進めるということは、つまり生きることであり変化することです。

 

「やり直す」と言うとき、文字通り時間を巻き戻すことは本来できません。

私たち生きるものにとって「やり直す」というのは、事の大小はあれど「再試行」です。

 

しかし、1日の最後に「今日」が消えてしまうサラにとって、今日を土台にして明日やり直すということはできません。

そしてこれ以上ない愛だと思ったナイルズとの関係すら、これまでのくだらない関係と同じになってしまったことで、彼女の「今日」はこれ以上深みを持つことはできなくなりました。

 

彼女が自分の人生をやり直すには「明日」に進むしかありませんでした。

 

ナイルズはいつからサラを愛していたのか?

ところで、サラが去ったあと、ナイルズは意気消沈します。

 

それほどまでに彼女を愛し始めたのはいつだったのでしょうか。

 

ナイルズはサラを1,000回以上ナンパしていましたが、

サラだけでなく、参列者なら男性とすら関係を持っていたほどなので、

最初は「手あたり次第」の中の一人だったのではないでしょうか。

 

(一体どれだけ同じ日を繰り返していたんだろう……)

 

おそらくそのうちに色々な話をサラから聞き、

サラを何度も口説くようになり、多分口説くのも上手くなり、さらに色々な話を聞き……

 

最終的にループ世界で、数時間の会話では収まりきらない彼女の人間性に惚れていったのではないかと思います。

 

咄嗟に「君とはヤッてない」と彼女からの信頼を得ようとしてしまったことからも、

サラのループ開始時点ではそれなりに彼女に好意があったことは伺えます。

 

もう1回観たくなる仕掛けも

二人は、サラのガッツで見事に翌日を迎えることができました。

 

さらに彼女はロイにも脱出方法を伝えており、

彼もまたタイムループから抜け出せるであろうことが示唆されています。

(よかった!)

 

しかも観終わったあと「あれ伏線だったのか~~!!!」と驚く部分があり、もう一度見るとなお楽しいです。

 

何回目かのループで銃を習ったおじさんにもう一度会って「あんたの息子だ!」と迫るシーンなんかは、

なんの意味もないようで意味があったという、個人的にとても好きなタイプの伏線でした(笑)

 

さて何を伏線と呼ぶかについては個人差があると思うのですが、個人的に感動した点を挙げます。

 

オーキッドエクスプロージョンの香り

満開の蘭の香りなのでしょうか。

サラにとって最初の結婚式で、ナイルズがサラのヘアミストを言い当てます。

 

サラは、嫌いな香りだけど妹がくれたから仕方なくつけている、と苦々しい表情で話していました。

 

しかし最後のループでは、

明日から生まれ変わると決めていた彼女は、妹の結婚式を「理想的な花嫁の姉」としてやり直します。

 

かつて何も準備しておらず慌てていたスピーチも立派にやり遂げ、妹と熱いハグを交わします。

 

そこで妹が「良い香り」と言うのが、なんとも妹という生き物らしいですよね。

私がお姉ちゃんのために選んだ香りだもんね。

 

かつてしぶしぶつけたヘアミストにしぶしぶ参列した結婚式だったのが、なんと希望に満ちたシーンでしょうか。

 

サラの感動的なスピーチは、妹を持つ姉としてもちょっと泣けました。

 

さらに、新郎の部屋の枕に残っていたオーキッドエクスプロージョンの香りが、

ナイルズがサラと新郎との関係に気づくきっかけにもなりました。

 

サラが過去の恋愛について何か打ち明けたそうにしても、「過去には興味がない」と取り合わなかったナイルズですが、

まさにその「過去」が明らかになったことで彼女の苦しみを知り、より恋しくなったのでした。

 

その割に未来に行けると分かっても尻込みするチキン野郎です

 

ちなみにオーキッドエクスプロージョンの商品名を検索すると、

おそらく映画のプロモーションの一環として作られたと思しいサイトが出てきます。

 

正体がよく分からないのでリンクは貼りませんが、気になる方は調べてみてください。

 

ところであの老婦人は何者?

残される唯一にして最大の疑問として、参列者の老婦人が挙げられるのではないでしょうか。

 

ナイルズとサラがスピーチをした回で彼らに話しかけ、スピーチが良かったと褒めてくれます。

 

それだけなら特に問題ないのですが、

最後のループにいたサラに「そろそろ行かなければいけないんでしょう、気を付けてね」と声をかけてくるんですよね。

 

ん???

何か知っているような雰囲気。怪しい……。

 

とはいえ同じタイミングでナイルズも年配の女性から「あんたが欲しいもの(思い人)はここにはない」と発破をかけられているので、そういうシーンかと思えばそれまでなのですが。

 

もし老婦人が最初のループ被害者で、ただただ永い余生を送っているのだとしたらメチャクチャ怖いですよね。

 


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