後味最悪ショートフィルム「健太郎さん」ネタバレ感想

2022年6月4日

アマプラのオススメに突然現れたので観てみました。

 

なんとクラファンで資金の一部を集めた低予算フィルムで、監督は1999年生まれ!

初監督作品がこれという、色々な意味で恐ろしい映画でした。

 

35分くらいのショートフィルムなので、すぐに観られます。

 

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「健太郎さん」あらすじ

閑静な住宅街の一軒家・斎藤家には、両親と高校生の兄、小学生の妹、

そして、彼らとは赤の他人である“健太郎さん”が住んでいる。

 

奇行を繰り返す”健太郎さん”だが、

家族はけして彼を刺激しないように奇妙な同居生活を続けている。

 

”健太郎さん”とはいったい誰で、目的は何なのか。

真実にたどり着いたその時、世界はひっくり返って回り始める。

 

「健太郎さん」はグロい?

「衝撃的なシーンが含まれます」という注意書きもあいまって、

いつ健太郎さんが暴力に走るのかとドキドキしながら観ていましたが、

 

「健太郎さん」にグロいシーン・暴力シーンはありません。

 

唯一、足を刺されるシーンがありますが、

刃物で刺す直接的な表現や流れる血は映りませんでした。

 

画面自体が直視できないようなグロシーンはないと言って差し支えないと思います。

 

「健太郎さん」ネタバレ感想

全体的な雰囲気は「世にも奇妙な物語」なんですよ。

ずーっと仄暗いブルーのような、不気味な色の画面です。

 

何より”健太郎さん”が不気味すぎる!

 

 

夜道で遭遇したら腰ぬかしそうです。

 

「不気味な画面」で、「腫れ物が家にいる」ということで、個人的にはちょっと「青の炎」を思い出しながら観ていました。

 


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まああれは血のつながりのある腫れ物で、それがさらに厄介だったんですが……。

 

健太郎さんに覚える違和感の正体

しかし、なんとなく感じる

「本当にこの人(そもそも人なの?)は悪い人(人なの?)なんだろうか?」

という違和感。

 

おそらく、作中でただひとり私たちに不快感を与えない妹が健太郎さんに自然に接しており、

健太郎さんもまた、彼女にだけはどこか人間味のある反応を見せるからではないでしょうか。

 

妹を除く斎藤家の人々は人間性に難ありで、

妻はヒステリックで夫は事なかれ主義、そして両親揃って子どもたちに対してやや無関心です。

 

(とはいえこれは、家の中心に健太郎さんという巨大な問題があるからですが……)

 

そして兄は空気を読まず健太郎さんに対して反抗心むき出しで、かなりひやひやさせます。

 

というわけで、齋藤家の好感度が、

不気味だけどなぜかマイナスはない健太郎さんのそれを下回ってきます(笑)

 

なんとなく、

健太郎さんは善なる妹側の存在であるような気がしてしまうんですよね。

 

そしてその違和感、

健太郎さんは怖いんだけどこの家族のほうが不気味なんだよな~

という感覚に対する答え合わせが、後半に現れます。

 

健太郎さんが斉藤家に居座る理由(ネタバレ)

ここから先は映画の核心に触れる部分なので、まだ観ていない方はお気をつけください。

 

なんと、

斎藤家はかつて健太郎さんと彼の娘をひき逃げしていたのです。

 

車を運転していた妻はパニックに陥り、

夫に言われるがままその場を離れてしまい、親子は事故現場に置き去りに。

 

健太郎さんは一命を取り止めましたが、健太郎さんの幼い娘は帰らぬ人となりました。

 

斎藤家を突き止めた健太郎さんは、

「(娘を亡くし)独りぼっちになってしまったので一緒に住まわせてほしい」

と両親に迫ります。

 

独りぼっちになってしまったので、というのがミソで、

家をよこせでも車をよこせでもなく、あくまで「同居」を迫っているんですよね。

 

健太郎さんは復讐のためにこの家にやって来て、

事故の真相が明るみになることを恐れた両親は健太郎さんの要求を飲んだ……

というのが、この奇妙な同居生活の真相だったのです。

 

もちろん色々、突っつこうと思えば突っつけるわけですが、

リアリティよりもこの、両者の執念のキモさが本作の核といえます。

 

健太郎さんの奇行と時系列について考察してみる

さて、本作はサラッと見ると「そうだったんだ……」と思って終わる話なのですが、

時系列について考察してみると、より健太郎さんの表情が豊かに感じられます。

 

本編の順番

まず、本編のまま並べると以下のようになっています。

 

① 健太郎さんお行儀最悪の食事シーン

② 母の個展の日

③ 妹が両親に絵を見せる(②の同日夜)

④ 健太郎さん、母の絵と父の資料破壊

⑤ 妹が健太郎さんの絵を見せる(②③の翌日)

⑥ 兄、両手に花束を持つ健太郎さんを目撃

⑦ 健太郎さん家を破壊、失踪(⑥の翌朝)

⑧ 両親誰もいなかったんだと言い出す(⑦の同日夜)

⑨ 平和が戻ってきた朝

⑩ 健太郎さん帰ってくる

⑪ 1年前の回想シーン(事故~健太郎さんが病院を抜け出して斎藤家に現れるまで)

⑫ 同居初期の回想シーン(パニックの両親と、健太郎さんを殺そうとする兄)

⑬ 母が発狂するラストシーン

 

多分こうなんじゃないか時系列

一方、1年前の事故を起点とする時系列に沿った並びはこうなんじゃないかと思います。

 

⑪ 1年前の回想シーン(事故~健太郎さんが病院を抜け出して斎藤家に現れるまで)

④ 健太郎さん、母の絵と父の資料破壊

⑫ 同居初期の回想シーン(パニックの両親と、健太郎さんを殺そうとする兄)

(しばらく時間が経つ)

② 母の個展の日

③ 妹が両親に絵を見せる(②の同日夜)

⑤ 妹が健太郎さんの絵を見せる(②③の翌日)

⑥ 兄、両手に花束を持つ健太郎さんを目撃

⑦ 健太郎さん家を破壊、失踪(⑥の翌朝)

⑧ 両親誰もいなかったんだと言い出す(⑦の同日夜)

⑨ 平和が戻ってきた朝

⑩ 健太郎さん帰ってくる

⑬ 母が発狂するラストシーン

① 健太郎さんお行儀最悪の食事シーン

 

ちなみに、④は映画を通しで観ていると、

「妹の絵をないがしろにした腹いせに母の絵を破った」ようにも見えるのですが、

兄の足がまだ健常なので前半のシーンではないかと思います。

 

冒頭のシーンについて

私たちは「奇行を繰り返す健太郎さん」というあらすじを読んだ上で、

冒頭のインパクト大・お行儀最悪シーンを見ることになるので、

このレベルの奇行が続くのか……!? と身構えてしまいます。

 

でも実は健太郎さんの奇行現場はこのシーンしか出てこないんですよね。

 

しかも、他のシーンでの健太郎さんは背筋をしゃんと伸ばしておとなしくしています。

ごはんもお行儀よく食べます。

 

では冒頭のシーンはなんだったのか。

 

時系列を並べ直してみると、

齋藤家の両親が妹に辛く当たったことに対する反抗であることが分かります。

 

健太郎さんの悪意は一貫して両親のみに向けられているんです。

兄を刺したのは兄が先に攻撃してきたからで、特段兄に危害を加えるシーンはありませんでした。

 

そして、事故の際に唯一健太郎さんを心配した妹に対しては、

自分の愛娘と重ねる部分もあり、彼女を傷つけるような言動を許しません。

 

つまり「健太郎さん」冒頭のシーンは、

妹の食べ方の汚さを𠮟りつけた母に対する嫌がらせでした。

 

両親が自分には何も言えないことを利用したんですね。

 

健太郎さんはなぜ戻ってきたのか

さて、娘の一周忌を越えてなお斎藤家に戻ってきた健太郎さんですが、

司法による裁きを受けさせるのと、精神的に追い詰めるのと、どちらが家族を苦しめられるのでしょう。

 

現在の法律では、過失運転致死罪の懲役は最大で7年とされています。

 

さらに母が逮捕されて実名報道されれば、斎藤家の他の人々も、

もうこれまで通りの生活はできないほどの社会的なダメージは受けるでしょう。

 

しかし、そうなれば健太郎さんにとって庇護の対象である妹にも被害が及びますし、

何より、大切な娘を失った被害者にとって「7年」という時間はあまりに短すぎます。

 

「いつまで」とも知れない状態で両親に精神的な苦痛を与え続けられる同居生活は、

彼にとって最大の復讐になりえるのかもしれませんね。

 

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