話題の異世界RTA「きさらぎ駅」ネタバレ感想

私は平成6年生まれ、「1992年以降に生まれた」が定義とされるいわゆるデジタルネイティブ世代です。

ただ学生時代の教室を思い返すと、実際にどの程度インターネットに触れて育ったかはまだかなり個人差がある世代だと思います。

 

個人的な経験としては、物心ついたときには家に箱のようなデスクトップパソコンと石板のようなノートパソコンがあり、レンタルビデオでセーラームーンやジブリを観て育ち、そして、インターネットとの衝撃的な出会いは小学校1年生のとき。

 

少し年の離れた兄がいる友達の家で、初めて「2ちゃんねる」と「フラッシュ動画」に触れました。

「あたかも を使って例文を作りなさい」「冷蔵庫に牛乳があたかもしれない」

これの世代です。思い当たる方もいるのではないでしょうか。

 

そんな私たちデジタルネイティブを震え上がらせたのは、もはや学校の怪談ではなく「検索してはいけない言葉」「ビックリフラッシュ」「シャレ怖」「意味怖」そして「オカ板」

※一部重複あり

 

映画「きさらぎ駅」は、2004年1月にネット掲示板「2ちゃんねる」のオカルト板に書き込まれた、ハンドルネーム「はすみ」の体験を元にしています。

 

※本記事はネタバレを含みますのでご注意ください

 

話題の異世界RTA「きさらぎ駅」あらすじ

大学で民俗学を専攻している堤春奈は、卒論のため、実際に神隠しに遭ったことがあるという女性に取材を依頼する。

取材相手の女性は、名前を葉山純子。

約20年前、仕事から帰宅する電車に乗ったのを最後に忽然と姿を消し、そのまま7年間もの間、行方不明になっていた人物である。

 

行方不明になっていた7年間、彼女はこの世に存在しない「きさらぎ駅」に下り立ち、たった一晩を過ごしただけだという。

現実離れした体験はなかなか信じてもらえず、冷やかしに遭うこともあるが、春奈の熱意に押されて今回の取材を快諾したのだった。

 

きさらぎ駅で下りた夜の怪奇現象について聞くうち、春奈は、きさらぎ駅にたどり着く道筋の仮説を思いついた。

神隠しを「再現」するべく、春奈は純子がかつて乗ったのと同じ時刻の電車に乗り込む。

 

はたして電車は、無人のきさらぎ駅へ再び到着したのだった。

 

これは私たちの知ってる「きさらぎ駅」ではない!!

前述の2ちゃんねるへの投稿は、その不気味さからじわじわと話題を呼び、私が初めて目にしたときにはすでに都市伝説となっていました。

元スレのやりとりはこちらなどから読むことができますので、知らない方はぜひ一度読んでみてください。

 

どうやら異世界に迷い込んだらしい女性「はすみ」が、2ちゃんねるに助言を求めながら、なんとか帰宅を試みるというものなのですが、今読んでも妙な臨場感があって怖いです。

 

さて、この元ネタを知っている身からすると、当然映画はこの「はすみ」の体験をなぞるものと思うわけですが、観ているうちにどうやら違うらしいということが分かります。

映画では「2ちゃんねるに書き込んだはすみ」は存在しないのです。

 

こちらはあくまでも、約20年前に神隠しに遭った葉山純子と、その話を聞いた堤春奈の物語。

 

純子が語るきさらぎ駅での出来事はかなり「はすみの書き込み」に近いものがあるのですが、元ネタの「実況と2ちゃん民の反応のラグによる、はすみは今どうなっている!?のハラハラ感」「極限状態にいるはすみの、通常ならありえない選択」などによる不気味さは薄れています。

 

逆に先がわからない面白さがあり、元ネタを知っていても知らなくても楽しめそうです。

 

「きさらぎ駅」はグロい?

さて、一応ホラーの扱いになる「きさらぎ駅」ですが、グロいシーンはありません。

 

刺されて流血するシーンが2か所ありますが、良くも悪くも演技にリアリティがないのであまり気になりませんでした。

ホラー映画のタイプとしては驚かせる演出が多く、このあたりはまさに往年のフラッシュ動画を彷彿とさせます。

 

逆に怪奇現象の描写はあえてなのかかなり「お化け屋敷」っぽい感じです。

なんか、レンタルビデオのパッケージみたいな絵面とでも言えばいいんでしょうか……。

 

キャラクターたちが大げさに怖がることもあり、「怖い」という印象は受けませんでした。

個人的には「世にも奇妙な物語」のホラー回のほうがよっぽど怖いです。

 

「カメ止め」的、前半がまん映画

さて、そんな「きさらぎ駅」、前評判を知らなければ途中で観るのをやめていただろうという超B級臭がします。

 

私自身、後半に何か仕掛けがあるらしいというのを知った状態で観ていました。

メインキャストにひとりだけ圧倒的ネームバリューを誇る本田望結がいる感じもまた、それっぽくて嫌な予感がするんですよね。

 

後半で始まる異世界脱出RTA

というわけで本作のキモとなるのは、後半から始まる「何が起きるか知っている状態で挑む異世界脱出」でした。

「後半から異世界脱出RTAが始まってワロタ」みたいな書き込みがありますが、これのことだったんですね。

 

春奈は聞いた通りに電車を乗り継ぎ、かつて純子が偶然迷い込んだ異世界へ、意図的にたどり着くことに成功しました。

純子の話にあった通りの台詞、行動をとる登場人物たちに気づいた春奈は、これから起きる出来事を把握した上で脱出を試みます。

 

「ここにいたら襲われる」「あの人まだ死なないから大丈夫」

などのメタ発言を厭わず、登場人物たちに怪訝な目で見られながらも異世界を攻略しようとする春奈。

 

しかも生還が約束された純子と全く同じルートではなく、一部改変していくというイカレっぷり。

 

さらに改変した結果として起きてしまう初見殺しの展開にすら、刃物と暴力で立ち向かっていきます。

正直、初対面の登場人物たちからしてみれば明らかに怪奇現象よりも春奈が怖いです。

 

私は法学部卒なので卒論を書いていないのですが、卒論にはそこまで学生を突き動かすパワーがあるんですか?

 

映画「きさらぎ駅」気になった部分と考察

そうこうしているうち、純子ルートでは怪奇の犠牲となっていた登場人物たちをかなり生存させたまま、最終局面までやってきた春奈。

その中には、純子を何度も励まし助けてくれたという、女子高生の明日香も含まれていました。

 

この明日香をめぐっては、少し気になる部分があったので考えてみました。

 

春奈は明日香を助ける気はあったのか

純子から聞いていた前情報により数々の即死トラップを回避して最終局面を迎えた春奈と一行ですが、ここで辻褄を合わせるように次々と犠牲者が出てしまいます。

 

そこへ、いかにも元の世界に戻れそうな光る扉が現れるのですが、春奈は究極の選択を迫られます。

というのも純子ルートでこの扉は明日香が入った後に爆発し、外に残った純子だけが生還していたのです。

 

つまり、春奈の持つ情報では「扉を爆発させるトリガーを引かなければ」「元の世界に戻れない」のですが、もはや扉をくぐれる生身の人間は自分か明日香しかいないのでした。

 

道中、おそらく春奈は、明日香と一緒に元の世界へ帰るつもりだったと思います。

明日香をとりわけ気に掛けるそぶりを見せ、「一緒に帰ろう」「あなたを待っている人がいる」という言葉もかけていました。

 

さらに、元の世界に戻るにはどうするのかという登場人物たちの問いに「光の扉をくぐる」としていました。

光の扉が正規の帰還ルートではないと知りながらこのように返したのは、明らかに明日香以外の誰かを犠牲にして扉を爆発させることが目的だったと考えられます。

 

現に、明日香以外のメンバーについては、できるだけ生存するルートを取りながらも、死んだら死んだで全く気にしない冷静さを見せています。

 

しかし、扉を爆発させられるのが自分か明日香かとなると、春奈はやはり明日香を犠牲にすることを選びました。

極限状態というのはもちろん、そもそも純子ルートで死んだ人物たちに再び会えた以上、もう一度トライすればいいやという気持ちもあったのではないでしょうか。

 

純子の本当の目的

明日香を先にくぐらせ、安堵したように微笑んでいた春奈ですが、思惑とは違って光の扉は爆発しませんでした。

 

なんと純子の話は脱出方法だけがフェイクで、最初から明日香を助け出すために春奈を異世界へ送り込んでいたのでした。

慟哭する春奈。この展開には少し驚きました。

 

RTAが始まったところで、なるほどたぶん明日香はもうとっくに戻ってこられない身体になっていて、彼女がまた土壇場で春奈を助けてくれるんだろうな……などと勝手に思っていたので、まさかもうひとひねりあったとは。

 

純子は「きさらぎ駅」だけでなく様々な神隠しの噂を調べ上げていました。

その結果のひとつとして、「光の扉」の特性に行き当たったのではないでしょうか。

 

春奈が第三者を犠牲にして明日香とふたりで生存しようとしたのが成功していたら、どうするつもりだったんだろう。

まあそうなったら春奈と明日香が再度きさらぎ駅行きの電車に取り残されるわけで、また新たな刺客を送り込んでいたのかもしれないですね。

 

こうなると、冒頭で熱心に取材し、「異世界エレベーター」の話を持ち出すなど異世界のしきたりにも知見のありそうな春奈を見て微笑んでいた純子と姪が恐ろしく感じてきます。

 

ちなみにこの姪は、エンドロール後のオマケシーンで自らきさらぎ駅へ行き(この世界の人間の度胸どうなってるんだ)、電車の初期配置に取り込まれた春奈と再会することになります。

 

明日香と純子は同時に行方不明になったわけではない?

最後に気になるのは、明日香はいつ迷い込んだのかという疑問です。

 

明日香は、純子が当時勤めていた高校に通う3年生で、純子とはお互いに初対面の様子でした。

別学年の副担任、しかも着任1年目(純子の異世界インは1月なので、約9か月)となれば、先生の顔や名前なんて知らなくても不思議はないと思います。

 

ただ気になるのは、明日香の服装が1月の通学ルックとしてはいくらなんでも薄着すぎる点と、「純子のことを知らない」ことがわざわざ2回言及される点です。

 

2回というのはメタ的な感覚です。

というのも明日香の記憶はきさらぎ駅に電車が着くたびにリセットされるため、あくまでも「異世界に迷い込んだ当時の明日香は葉山先生を知らない」のです。

 

「務め先の学校に通う学生」である設定も、どうせ初対面なら本来いらないんですよね。

大切な生徒を守れなかったとして純子は自責の念にかられていますが、キャラクターとしてそういう意識を持たせるなら「教師という立場でありながら居合わせた子供を守ってあげられなかった」で十分なんです。

 

このことから少しうがった考え方をするなら、純子と明日香の在籍期間がズレていた可能性があります。

 

明日香がそもそも幽霊や善良な怪奇説も考えたのですが、こちらの世界で明日香を今も探している母親の話があるので、明日香が実在していたのは確かなようです。

ただしこの母親について、純子は「もう年なのに」としています。

 

純子が行方不明になった2004年に明日香が18歳だったなら、現在ではアラサーのはずです。

 

のはず、というのは、春奈が異世界にインした年度が、作中ではおそらく意図的に隠されているためです。

終盤で純子が見ている春奈の身辺調査票の表記から、2020年以降の6月なのは確定しています。

 

もし映画が公開された2022年の話だとしたら明日香は現在36歳なのですが、その母親が「年なのに」と言われるほどの年なことある……?

 

40歳の時の子どもだったら明日香の母親は76歳。

娘が行方不明になった心労のことを考えれば、実年齢以上にやつれている可能性もありますし、十分あり得た話でした。失礼しました。

 

純子も明日香を探しにいった一人なのではないか?

そもそも明日香の使っているケータイの形状から、2004年よりもかなり昔の人間でしたというパターンこそなさそうです。

しかし1月にコートも着ていない様子から、おそらく純子と同時にきさらぎ駅へ迷い込んだわけではないのだろうとも思います。

 

ただ、もし先に明日香が行方不明になっていたのだとしたら、勤め先で行方不明になっている生徒を知らない教師こそいるわけがないんですよね……。

それこそ大昔の事件ではない以上、純子の中では必ず顔と名前が一致しているはずなんです。

 

ひとつ考えられるのは、純子がそもそもオカルト好きで、明日香を探しに行っていた説でしょうか。

姪っ子のバカ度胸が純子由来だとしたら、なくはない話にも思えます。

 

もしこのあたり、何かお気づきの点がある方がいればぜひTwitterのDMやコメント欄で教えてください。