剛はダブルリミテッド?「日本沈没2020」ネタバレ感想

2020年7月20日

物騒なタイトルのアニメが、ネットフリックスで公開され話題です。

 

https://japansinks2020.com/

 

全10話のアニメーションになっています。

(追記:2020年11月、再編集した劇場版が公開されたそうです。説明不足だった部分は改善されているのか期待しています。)

 

以下ネタバレを含むのでご注意ください。

 

「日本沈没2020」あらすじ

2020年、日本を未曽有の大地震が襲った。

 

東京都に住む武藤家の家族4人は、

それぞれに被災するものの、なんとか合流を果たす。

 

家族は壊滅した東京からの脱出を試みるが、

割れた大地、混乱した群衆の中、移動は困難を極めた。

 

極限状態で迫られる生と死の選択。

平和な日本を取り戻すことはできるのか?

 

日本沈没2020は反日アニメなのか?

Twitterでは、

公開されるやいなや反日アニメであるとの声多数。

 

身構えながら視聴しましたが、噂ほどではなかったです。

 

よく見るクレーム①「日本人はもっと協調性がある」

未曽有の大震災を前に不自然なほどいがみあう姿が描かれています。

 

たとえば、

まだ誰も当面の食糧に困ってない時点で配給物資の奪い合いが起きたり、

「純血の日本人だけを助けろー!」と叫ぶ人がいたりですね。

 

とはいえ、

災害のない世界でもおかしな人って一定数いますからね。

 

多くの人が粛々と並んでいるのは、むしろいつもの日本かなと思いました。

 

よく見るクレーム②「弟に反日のセリフを言わせている」

この感想も多く見ました。

 

本作に登場する子ども二人は、

日本人の父とフィリピン人の母を持つミックスです。

 

 

主人公の歩。

ジュニア陸上の日本代表選手。

 

 

歩の弟・剛。

日本の排他的なところが大嫌い。

 

剛は、外国の友達と繋がれるオンラインゲームにどっぷりで、

IT技術が進んでいるエストニアに移住したいと言ってはばかりません。

 

ミックスの二人ですが、

剛は歩に比べるとフィリピン人の母寄りで描かれていました。

 

本作では、その母が、

外国人という理由で排除されるシーンが何度かあります。

 

もしかしたら剛は、学校でいじめられていたのかもしれません。

 

そういった中で、オンラインで繋がった外国人やYoutuberに触発されて、

剛が「外」に行きたいと思うのは自然な発想だと思いました。

 

剛というキャラクターについて

実はこの剛、小学二年生の設定です。

まだティーンエイジャーでもないわけです。

 

自分の時代と比べて、いやに大人びている印象を受けました。

 

剛はとてもリアルな「マセガキ」

令和生まれの子どもは、生まれたときからYouTubeが身近にあります。

 

一方、平成一桁生まれの私では、

インターネットで顔の見えない人と話し始めたのが10歳前後です。

それでも同世代では比較的早い方でした。

 

自分の知らないことを知っている人との交流が増えたことで、

色々なことに興味が湧いて、調べものもたくさんしました。

 

インターネットを触り始めると、急に世界が2倍も3倍も広がります。

今の時代の子どもは、その開花が良くも悪くも早いのでしょうね。

 

俺スゲーってなって、

大人含めそれを「知らない」人がバカに見える時期ってあると思うんです。

 

大人は当然そんな時期とっくに超えていて、

子どもには想像もつかないほどたくさん考え終わって今に至っていることには、

まだ思い至らないんですよね。 

 

というわけで、

剛は非常にリアルなマセガキだと思いました。

 

剛の変化

そんな剛も、移動の道中、

多くの日本人・大人たちに助けられながら、彼らの価値観や人生観にふれて、

日本という国を見直しているふしもありましたね。

 

いまいる世界(日本)から自分が出ていくという、

乱暴で悲しい選択肢しか持っていなかった剛が、

いまいる世界を広げるという新しい選択肢を得る。

 

小学二年生ながら背負っているものが大きく、思わず応援してしまいます。

すごくいいキャラクターだったと思いました。

 

ダブルリミテッドについて

剛はしばしば、ルー語ばりの英単語まじりで話します。

これが耳障りだというクレームもかなり見ました。

 

しかし、剛は英語は「勉強中」と言います。

 

フィリピン人の母が、家族に英語で語りかけるシーンがあるので、

母との会話では英語が多かったのではないでしょうか。

 

つまり、彼は英語交じりの日本語でしゃべっているのではなく、

日本語も英語も中途半端になってしまっているのではないでしょうか。

一つ以上の言語に触れて育つ言語形成期の年少者が、

どの言語も年齢相応のレベルに達していない状況を、

ダブルリミテッド(セミリンガル)といいます。

 

ダブルリミテッドに関する渡辺直美さんのインタビュー

幼少期、台湾語と日本語に挟まれて苦労したという、

渡辺直美さんのインタビューを以下に引用します。

 

──帰国子女やハーフの方で同じような悩みを持ってる人も多いかもしれないですよね、今の時代。

 

「その診断を受けてから、自分でも結構調べたんですけど、意外と多いみたいですね、ダブルリミテッド(セミリンガル)という母語が確立できていない状態の人が。お医者さんからも、NYに行って英語覚える前に日本語覚えてくださいって(笑)。

日本に住んでいながら日本語も台湾語も中途半端で、この世界に入ったのは18歳からですけど、そこから覚えた言葉が今の自分を支えている。それまでは日本語の引き出しが少なすぎて、自分の感情すら何て表現すればいいのかわからなかったり、思っていることを言葉で表現できなかった。

自分のお子さんをバイリンガルやトリリンガルにしたいという人もいると思うんですけど、3歳から始めても遅くないんじゃないですかね。やっぱり母語って大事。」(以下省略)

 

「ヌメロ・トウキョウ」2018年1・2月号インタビューより引用)

 

グローバル化が進む中で、

これから起こりうる問題を提起する意図があったのかもしれません。

 

剛も、懐いた日本人の老人とはできるだけ日本語でしゃべるようにする

(明らかに英語のセリフが減る)など彼なりの努力が見え、

ここからも、ただのカッコつけではないように思いました。

 

パニック映画としては花マル

というわけで、

「日本沈没2020」全然悪くなかったのではないかと思います。

 

パニック映画として。

 

パニック映画として観れば、私はむしろ好きな話でした。

 

ヒューマンドラマにするのは厳しい

ヒューマンドラマにするには一つ一つのエピソードが怒涛の展開すぎます。

 

未曽有の大地震が起きて、家族が分断されて、

やっと集合したのにありえないハプニングで人が死んでいく……

 

災害下での家族の絆に浸っているヒマがありません。

 

パパがバラバラになって死んじゃった!

でも私たちは、進むしかないんだ!

 

大好きなパパが死んだというのにこの切替の早さです。

 

拳銃も、不発弾も、謎のガスもパワー系人間も出てくるのに、

「2020年、日本を改めて考える」

とか重いテーマを背負わせて観ると違うのかなと。

 

「ターミネーター2」の邦訳版セリフ「地獄で会おうぜベイビー」や、

「ポセイドン・アドベンチャー」の潜水おばさんなど、

名作のオマージュが散りばめられていたのは嬉しかったです。

 

やっぱりパニック映画じゃん

 

もったいない作品

そうは言っても、

とにかくエピソードが雑すぎます。

 

丸投げされていた要素

元暴力団のユートピア宗教団体って情報量すごいけど、経緯は?

マイケルとはなんだったのか?

なぜ先輩は引きこもりになったの?

ヤク中おじいちゃん、本来孫は女の子だったけど大丈夫?

小野寺さんはなんでそんなところにいたの?

なんでみんな小野寺さんのこと無視するの?

漁師のおじちゃんは、船を貸すためだけに出てきたの?

 

これらは、もっと掘り下げてほしかったです。

 

それぞれに掘り下げたバージョンがあるなら観たいですが、

でもそれって、番外編ではダメなんです。

 

ちゃんと本編の中で掘り下げてくれないと、

ご都合主義すぎて一つの作品としては不完全だと思ってしまいました。

 

公式サイトに行くと結構詳細に設定があるみたいなので、残念でした。

 

主人公のヒステリー加減

あとは、主人公がヒステリーすぎる。

中学生ですからね、そういうこともありますよね。

 

でも「とにかくだめ」とか「なんかいや」とか、

感情論で周りを振り回そうとするんですね。

 

しかしうるさく聞こえるということは、声優がよい証拠だと思います。

 

自衛隊がいない

両親やYoutuberが化け物じみた身体能力を持っていることは、もうこの際いいです。

 

ところで自衛隊は何してたんだろう。

 

この国の自衛隊は、

有事にはもっと信じられないほどの統制を以て人命救助に当たってくれると思います。

 

日本の現場力をナメるなと。

それだけはちょっと不満でした。