おすすめ歌集の話

2021年3月28日

先日「読めるアテはないけどとりあえずカバンの中に入れておく本のことを ”運ん読(はこんどく)” とする」というツイートを見て、絶妙すぎて笑いました。

 

電車の中で、ちょっと一息ついたカフェで、短歌を読んでみるのはどうですか?

 

短歌って難しい。季語とか入るんでしょ?

季語が入るのは俳句です!(一般的には)

ちなみに、季語がない5・7・5のものを川柳といいます。

 

短歌は5・7・5・7・7の音になっていて、結構長いです。

 

そして最近の<現代短歌>と呼ばれるものはかなり作風が幅広く、自由。

俵万智の「サラダ記念日」は、有名なので聞いたことがある方も多いと思います。

 

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日 (俵万智)

これも短歌なんですよ。

 

現代短歌と穂村弘と枡野浩一

一方で、サラダ記念日の歌のように、読んだまま意味が取れるものではなく、

どれだけ言葉を研ぎ澄ませて、31音の中に宇宙を作れるかというような作品も多いです。

 

その風潮は、「ダ・ヴィンチ」で連載されている短歌公募コーナー「短歌ください」にも顕著です。

 

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選者を務めるのは穂村弘。

現代短歌を広めたといっても過言ではなく、その抽象的で幻想的な作風にはファンも多いです。

 

校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け (穂村弘)

 

この歌は教科書にも掲載されて、見たことがある方もいるかもしれません。

実は私は、この歌を見たとき「わかんね~~~」となった派でした。

 

後に、高校の文芸部に入って創作活動をするようになるのですが、やはりそこでも穂村弘の影響は強く、他の人が出してきた短歌を見て何も言えずにもごもごしていました。

 

でも、短歌が好きってちょっとカッコいいじゃないですか。

 

好きな歌、ほしいな……。

短歌について語りたいな……。

 

と思っていたとき、古本屋で出会ったのが枡野浩一の歌集でした。

 

枡野浩一の短歌は、言葉の意味としてはそのまま読むだけで取れるものが多くて、でも自分の経験や考えかたによって思い出すものがあったりなかったりして、ものすごく好きです。

 

……という話は長くなるのでこちら。

 

そんなわけで、枡野浩一派の私が好きな短歌や、歌集をちょっとまとめたいと思います。

 

これならいける! と思ったら、ぜひ手に取ってほしいです。

31文字ってこんなに自由なんだ、と思います。

 

短歌はいいぞ。

 

小説「ショートソング」枡野浩一

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いきなり小説ですいません。こちらは枡野浩一初の長編小説。

 

短歌初心者のチェリーボーイと、天才歌人のプレイボーイ。

同じ歌会に参加しながらまるで違うふたりが、それぞれに恋愛や歌作りに思い悩む青春ストーリー。

 

なにがいいかというと、

作中に歌会のシーンが盛りだくさんで、実在する歌人の歌が登場人物の作品として引用されています。

 

短歌のコンセプト・アルバムみたいな感じで、

しかも引用された短歌が、作者・収録作品とともに巻末にまとめられているという至れり尽くせりなので、まずは色々読んでみたい人や、新しい歌人を知りたいなという人にもぴったりです。

 

枡野短歌が好きな人は好きだろうなという、かゆいところに手が届く切り口や、口ずさみたくなるリズムの歌がたくさんあります。

 

特に好きな歌を引用します。

枡野浩一作品は挙げるときりがないので省きます。

 

でも、引用リストをぱーっと眺めて「すき」と思ったら1/2は枡野作品だというくらい好きです。

 

百錠は飲み過ぎだった 痛いのを我慢できないあなたにしても (佐藤真由美)

謝られ もうよしとする 許さなくたって生きてく人なのだから (宮田ふゆこ)

花中葬 今は悲しいまま進み いつか追いつくつもりの二十歳 (木村比呂)

だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし (宇都宮敦)

 

とくに最後の歌は、ふとした時にいまでも口ずさみます。

 

「急いでないし 旅でもないし」

 

なんだか肩の力が抜けて、急に目の前が広くなった気がする歌です。

 

歌集「たんぽるぽる」雪舟えま

とにかくまず装丁が可愛くてサイコー。

タイトルも超かわいい。

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わりと破調(57577を崩す文字配分)が多いのですが、愛情が口からぽろっとこぼれてしまったような自然な歌が多くて、文字をたどって自然に読めてしまいます。

 

ふと「死ね」と聞こえたようで聞きかえすおやすみなさいの電話の中に

おにぎりをソフトクリームで飲みこんで可能性とはあなたのことだ

泣いているわたしはとくに重いとか 抱いてスクワットする夫

 

私たちには、他人の愛情・他人への愛情によって生かされている瞬間があるなあ、としみじみ感じる歌集です。

 

歌集「やがて秋茄子へと到る」堂園昌彦

 

平成の出版物にしてなんと気合の活版印刷

(第3刷以降はオフセット印刷になっているそうです)

 

それだけでときめく人いると思います。私がそうです。

 

これまでの二冊に比べると詩的で遠まきな表現が多いのですが、どれも震えるほど美しい言葉えらびで、活版のへこんだ活字を指でなぞりながら口に出すと、自分もその春や初夏の日に降り立つような気になります。

 

見上げると少し悲しい顔をして心の中で壊れたらくだ

君の寝る朝の枕の小ささのその小ささを日差しは愛でる

 

「光」を取り上げている歌も多く、印象派の絵画みたいな、いつか見た光のまぶしさ、美しさを思い出します。

開くたび愛おしさの増すふしぎな歌集です。

 

ブックガイド「書棚から歌を」田中綾

地元の新聞で連載されていたコラム(著者曰く「ブックガイド」)です。

毎回、短歌にまつわる本を一冊紹介して、コラムのなかにいくつかの歌が引用されています。

 

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毎週なんとなしに楽しみにしていた中で、初めてぎゅっと心掴まれたのはこちらの歌。

 

君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ (中島歌子)

 

恋心を教えたならちゃんと忘れさせてよ、と訳すとどことなくJ-POP感がありますが、いつの時代も乙女の悩みは同じですね。

 

 

さらに最近は、

私自身が年を重ねてきたこともあってか、両親にまつわる歌にとりわけ目が留まるようになりました。

 

寝ぬる間のみ貧苦を忘ると就床にける老いにし父を涙ぐみて見る (小林多喜二)

いつの日かつひの別れはありと知れ今宵は母と肩寄せて眠る (塚本邦雄)

 

だんだんと両親も年を取り、自分自身もひとりの人間として成熟してきたなかで、「親とて人間、かんぺきではない」「そしてだんだんと脆くなっている」というのがわかるようになってきました。

 

生まれてから長く尊敬の対象であった親の弱い部分を見ることや、あるいは終わりを意識しはじめてしまうのは辛いものがありますが、対等ないち人間同士として、ありのままで話すことができるようになったことは嬉しくもあります。

 

いつか必ず来る別れの前に、まだまだ聞いておきたいことがたくさんあります。

 

短歌はいいぞ

気になる歌集や歌はあったでしょうか。

 

出身が北海道なので、どうしても贔屓になりがちなところがあるのと、

そもそも高校で文芸をしていたときは、知らず知らず北海道の文壇にふれる機会がやはり多かったので、少し偏りがあるのが申し訳ないです。

 

短歌は「歌」なので、やっぱり口に出した時の最初の印象って大事で、なんだかふとした時に思い出して、なんどもなんども口ずさんで、どこかでその歌に救われたりしていることがあります。

 

これからもそういう歌を増やしていけたらいいなと思います。