繰り返される差別の歴史を思う「Us」ネタバレ感想

2020年6月26日

2020年春。

ひとりの黒人男性が、白人警官の”過剰な”取り押さえにより死亡したことを受け、BLM(Black Lives Matter)運動が全世界的な広がりを見せています。

 

アメリカでは黒人男性の1000人に1人が警官によって殺されるとされ、

死因として、さまざまな病名と並んでランキングに入るほどです。

 

そもそも黒人男性の犯罪率が高いのだから射殺制圧される率も高くなる!

いやいやそれは貧困率が高いのを無視できないだろう!

 

という論争は、堂々巡りなのでここでは一旦置いておきます。

 

そこへ、世界的なコロナ禍による精神的・身体的な抑圧感や、

経済の落ち込み、格差の拡大、そしてSNSの発達……

 

さまざまな要因が重なって、ムーブメントが拡大したように感じます。

 

「Us」は、ホラーでありながら、

世界中に横たわり続ける差別問題に、けして無関係ではない作品です。

 

 

まず思ったことは、これは破壊と再生の物語なのだろうということでした。

ネタバレしかしないので、知りたくない方は自衛してください。

 

「Us」はグロい?

私はグロが苦手なので怯えながら視聴しましたが、

「Us」には内臓シーンはありません。

 

MAXでも、鈍器で殴って血しぶきが見える演出、刃物で流血するレベルで、

切り取られた身体の一部が映るようなことはありません。

 

ただし、びっくりさせるホラー系の演出があるので、苦手な方は薄目で。

 

「パラサイト」が見れる人は問題ないかなと思います。

 

「Us」あらすじ

黒人の少女・アデレードは、ビーチに出店していた「鏡の迷路」で迷子になり、

その中で、まさに鏡うつしのように自分にそっくりの少女に出会う。

 

すぐに迷路からは脱出できたものの、

恐怖体験のトラウマから、アデレードは失語症を患ってしまった。

 

習い事のバレエもリハビリに功を奏したのか、

徐々に失語症の症状は回復し、無事に大人になったアデレード。

 

今でも少し口下手な方ではあるが、

優しい夫と、生意気ざかりの二人の子どもとともに幸せに暮らしていた。

 

ある日、毎年恒例のバカンスにやってきたアデレード一家は、

別荘の外に佇む怪しい四人組に気づく。

 

揃いの赤いジャンパースーツをまとった訪問者たちは、

自らを「実在する人間のクローン(影)」であると語り、アデレード一家に襲い掛かった。

 

クローン家族の目的は? 家族は生き残ることができるのか?

 

「Us」の結末をネタバレ

クローンの人々について、

地上の「オリジナル」に対する「影」と呼ぶことにします。

 

実は「オリジナル」のアデレードは、

幼少期に迷路で迷子になった際に、自らの影に出会い、

 

そのまま入れ替わられていました。

 

つまり、

一家を襲いにやってきた、ジャンパースーツのアデレードが「オリジナル」

地上で大人になった口下手なアデレードは「影」だったのです。

 

どちらをアデレードと呼ぶかは微妙なので、

本記事では一貫して「オリジナル」「影」で呼びたいと思います。

 

(Wikipediaに行くと設定上の名前がちゃんとあるよ。)

 

地下の施設の目的は?

本作において影の人々は、

政府にクローンとして作成されたきり、地下施設に放置されていました。

 

実際のところは明かされていませんが、

個人的には、臓器移植目的かな? なんて思いました。

 

近年ではEPS細胞などの技術も進化していますが、

もし本人と全く同じ遺伝子を持つ人間がコピーできたら、

拒絶反応なし、かつ手軽にスペアの臓器が手に入るんですよね。

 

神になり損ねた人間とその遺物

影の人々は地上にいるオリジナルに行動を引っ張られ、

あやつり人形のように地下世界で全く同じ動きをしています。

 

言葉を喋ることはなく、知能も育たないまま、ただ生かされています。

 

しかし感情がないので気になりません。

影の人々全体で、ひとつの魂を分け合っているそうです。

 

身体は作ることができたけれど、のせる魂は作れなかった。

 

私たち日本人のオタクにとっては、

「鋼の錬金術師」などでもおなじみの概念ですね。

 

人間は神にはなれません。

 

さてそんな「神になれなかった政府が遺した出来損ないの人間」が、

「影」であることを前提に、いろいろ見ていきたいと思います。

 

地下の人々と神について

地下にいる「影」たちは、太陽の光に当たることもなく過ごしています。

 

青白くなっちゃいそうですけど、

クローン技術を持つ政府のことなので、うまくやったのでしょう。

 

さて、光は神の象徴でもあります。

「影」の人々が神を奪われていることについて以下で書いていきます。

 

「光」を奪われた地下の人々

『旧約聖書』の冒頭「創世記」より抜粋します。

 

God said, ʻLet there be light,ʼ and there was light; and he separated light from darkness.

He called the light day, and the darkness night. So evening came, and morning came; it was the first day.

 

訳:神が「光あれ」と言うと光が誕生し,神は光と闇を分けた。神は光を昼、闇を夜と名付けた。そして夜が訪れ朝を迎えた。これが第一日である。

 

本作ではクローン人間が表れる前、演出として停電が起きています。

 

アデレードが迷子になった鏡の迷路、一家の別荘、友人一家の別荘でも、

停電が起きてうろたえているところに、クローンが現れます。

 

もちろん、闇に紛れて襲う目的もあるでしょうが、

光を奪うことは、それ自体が象徴的な意味を持っているように感じました。

 

神になったアデレード(オリジナル)

影は地上にいる自分に文字通り「引っ張られる」ことが示されています。

 

オリジナルのアデレードですら、地下社会に連れ去られたのちは、

地上にいる影の行動に引っ張られるようになります。

 

天井から糸で吊るされているように、

地上のアデレードが右に曲がれば右に行くし、

食事をすれば口に何かを運ぶことになります。

 

しかし、

元オリジナルである彼女には知性や感情がありました。

 

地下での食事である生のうさぎを食べることへの嫌悪、

愛していない夫をあてがわれること……。

 

影たちが当たり前に受け入れていたことは、

本来オリジナルであるアデレードにとっては地獄のような日々で、

憎悪を蓄積していったことが分かります。

 

おそらくアデレードは影の社会で初めての「言葉を持つ人」になり、

やがて、影たちを導く信仰対象=「神」になったのでしょう。

 

自由を得た地下の人々

元来、影に知性はありませんが、

影アデレードがオリジナル両親と過ごす中で言語や感情を習得していく様子から、

後天的にそれらを得ることはできそうです。

 

これまで意思を持たなかった影社会に、アデレードという神が現れました。

 

神が現れ、信仰という行動が起きたことで、

影たちは自分の自由意思を持つようになりました。

 

そうして影たちは結託し、オリジナルを手にかけたのでした。

 

とはいえアデレード以外の影たちは相変わらず喋れないようでしたが、

どうやって計画を伝えたんでしょうね。

 

最後にいた黒板のある部屋で授業とかしたのかな?